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なんとかバイトの時間にはギリギリ間に合った。
ローテーションで朝方までレジを打っていた芳史と入れ代わる。
「遅ーよ!お前来ないかと思ったぜ?」
「悪ぃ…」
オレンジのエプロンを腰に巻きながら、ムキになる芳史に対応する。
夜中から起きてる奴は、変にテンションが高くて厄介だ。
特にコイツの場合は。
芳史は、つい最近このバイトに入ったばかりの癖に、タメだということが分かって以来、ウザイぐらいに俺に馴れ馴れしい。
明るい茶髪に、見る度に違う服装。
一番関わりたくない人物だった。
「なぁ~んだよ~!秀二今日機嫌悪ぃじゃんかよ~」
「…別にいつもだろ」
俺は目を合わさないままに言い放つ。
エネルギーの有り余ったその目を見る気力はない。
「い~や!今日の秀ちゃんはちょっと違うね!」
何だよ、秀ちゃんて。
マジでウゼェ。
全部が。
「すみません、セブンスターのソフトをひとつ」
「あ、はい」
レジの前に一人のサラリーマンが立つと、芳史はそそくさとスタッフルームへと入っていった。
俺はそれを視界の隅で感じ取りながら、レジを打つ。
30代前半くらいの若いサラリーマン。
日曜も朝から仕事だろうか。漆黒のスーツに身うを包んでいる。
「230円になります」
「あ…えっと…あれ…?」
突然サラリーマンの顔が曇り、スーツのあちこちを探り出した。
「あはは…お、おかしいなぁ…」
苦笑いを浮かべながら、ポケットを探っているが、不要なレシート等の白い紙切れしか出てこない。
「お客様…もしや、お財布をお忘れで…?」
レジの台には、クシャクシャのレシートが山積みになっていた。
「あった!!」
突然叫ぶと、サラリーマンは、またもやしわくちゃの一枚の紙切れを差し出して来た。
え、金じゃねぇの…?
差し出されたからには、とりあえずそれを受け取ってみる。