1 3 6 5 8 3
「は?…何だよ、荒れるって…」
「あぁ、大本命がいないから、勝負はどうなるか分かんねぇっ…てことだよ」
「どうなるか…分からない…?」
微かに、希望が宿る。
「そ。ま、こーゆーレースで出やすいんだよな、万馬券は」
「万馬券……」
お…
おいおい…マジか…?
あのサラリーマンのこの馬券も
もしかしたら満更じゃねぇってことかよ…
「あ、何だよお前。馬券買ってんじゃねーかよ」
「ち…違っ…!」
右手と新聞の裏の間に挟むようにして持っていた馬券を、ピッと引き抜かれる。
「なになに~?3―12で馬連かぁ~」
面白半分にニヤつきながら、芳史は視線を馬券から俺の持つ新聞へと移す。
「な、なぁ…『馬連』て…何だ?」
「はぁ!?!?お前そんなんも知らねぇで馬やってんの!?」
この大袈裟なくらいに見開かれた目にも、うんざり。
「い、いや、だからその馬券は…」
「馬連はなぁ、1着2着が順番通りに当たらねぇと意味ねぇんだよ!…と…う~ん……」
話の途中でいきなり芳史が唸り出した。
「な、何だよ」
芳史は、口をへの字に曲げて、腕を組んで考え出した。
「何だよ、何か言えよ」
いつもなら、コイツがどんな態度を取ろうが、何を考えようが俺には関係ないし、そもそも関心がない。
だが、今回ばかりはそうはいかない。
俺に関係大有りどころか、俺の人生に関係大有りだ。
もったいぶるように、わざとらしく考え込む芳史。
こうして自分が、こんなヤツを急かす立場にいること自体、腹立たしい。