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「…分からんな」
「は?」
いきなり芳史が零した答えに、俺は眉をひそめた。
芳史は腕組を解いて、もう一度記事の中を覗き込む。
「…分かんねぇって…何が…」
こうして芳史に答えを求めるのも、自分のプライドが削られるようで不快だ。
「このお前の組み合わせがだよ…」
「…3―12か?」
「…あぁ…もしかしたら大穴かもしんねぇ…」
「大穴…?」
「普通に見りゃ一番有り得ねぇ組み合わせだ…でも、もしかしたら……」
芳史が意味ありげな顔で俺を見つめる。
「…300倍は…軽く超えるな…」
「さ…っさんびゃく…!」
100万の300倍って…
い…
いくらだ…?
ちょ…ちょっと待てよ…
頭が…頭が回らん…
何個0を付けりゃいいんだ?
「秀二、お前いくら賭け…いてっ!!」
俺は咄嗟に馬券を奪い取った。
100万賭けてるなんてコイツに知れたら…
「なぁんだよ!せっかく教えてやってんだから別にいいだろ?!どーせたいした額じゃねーくせに」
たいした額なんだよ。
「ひゃ、百円だよ!ほら、もういいだろ!?早く行けよ!」
俺は慌てて芳史を店の扉に向けてグイグイと押し出す。
「な、ちょっ…!」
「またな」
「おいっ!」
そこに丁度よく女性客が現れた。
「いらっしゃいませ~」
俺はわざとらしいくらい、にこやかにそう言いながら女性客を店内に率いれ、扉を閉めた。
その隙に流れ込んで来た冬風に、思わず身体を強張らせる。
扉の外では、何度も不服そうにこっちを振り返りながら遠ざかって行く芳史の姿があった。
俺は手にしたままだった新聞を、冷静を装って棚になおし、レジへと戻った。
店内には俺と一人の女性客のみ。
彼女は一番奥の冷蔵スペースで飲み物を選んでいる。
俺は彼女がまだレジに来そうにないのを確認し、そっともう一度馬券を見てみる。