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俺は生唾を飲み込んで、そのテレビの前でゆっくりと足を止めた。
まさか…な…
んなわけ…ねぇよな…?
心臓の拍動に締め付けられ、上手く酸素を取り込めない。
身体は正面に向けたまま、顔だけをテレビ画面に向けた。
―東京競馬 如月杯―
テレビ画面の右上には、あの馬券に書かれていたものと同じタイトルが映し出されていた。
『不調だとはいいながらあそこでまさかの展開でしたね~!センマンバリキオーは!!』
え…?
『はい~!ですが、その後のスミレブライアンの追い上げも素晴らしかったですよ~!さすが柴村騎手!と言ったところでしょうか~?』
おい…
ちょっと待てよ…
今…今何つった…?
センマンバリキオーに…
スミレブライアンだと…?
ドクンと、心臓が痛いくらいの音を立てたのを感じた。
―この試合は荒れるな―
おい…芳史…おまえ…
午前中の出来事が鮮明に脳裏を駆け巡った。
新聞記事の一言一句。
芳史の一言一句。
つぎはぎだらけの記憶の中で、この馬券に関する言葉だけが、次から次へと頭の中を飛び交っていた。
―軽く300倍はつくな―
そ…そうだよ問題は…
俺は口内に広がる気持ち悪い生唾を再び喉に押し込み、呼吸を荒くしながら身体ごと画面に向けた。