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the 4th
何でだ…
何で馬券がないんだ…?
「嘘…だろ…お…?」
信じられねぇ…
ないわけねぇだろ?
ないわけが。
電気屋の前で一人引き攣り笑いを浮かべる俺は、傍から見ればさぞかし不気味だったことだろう。
何の面白みもない夕方のローカル番組に切り替わったプラズマテレビの前で、
まるでこの寒さすら感じていないように意識を止めた俺を、何人の主婦が振り返っていたのだろうか。
「お…俺の……俺の3億……」
うつろに開かれた目玉が、もはや何にも焦点をあてられてはいなかった。
特に見たいものがあったのかと聞かれればそれまでだが、自分の身体の外と内が何らかの膜で隔てられたような
初めての感覚。
3億がどれくらいとか
3億で何ができるとか
そんなの分かるわけがない。
ただ俺の直感が掴めているのは、3億っていうのがどうしようもないくらいの大金で、そして
俺の人生を変えるものだということだ。
俺の…俺のこの腐った人生に終止符が打てる…!
―だから言っただろう。お前みたいなヤツが東京に行っても何も変わりはせんと―
―秀ニ、お前いま東京で何やってんの?え、フリーター??東京まで出て来て?―
―やべ~マジ今度の仕事すんげぇ大変なんだよ~。いいよなぁ~秀ニは楽でー。変わりてぇよ~―
「………っ」
見返してやる…
感覚を失っていたはずの両の拳に痛いくらいに力がこもっていく。
冷えて掠れた唇に、無理矢理に歯を立てる。
「あ…れは……俺の…俺の金だ……」
身体の内側から表面を凌駕するような欲。
欲すらも失ってしまったとばかり思っていたのに、今こうして俺の目に狂気の炎を燈し、その足を走らせているのは
他の何ものでもない
―欲―だった。