恋の説明書
「おい!」
続いて男も車から下りてきた。
「何よ」
男の不機嫌そうな顔なんて気にも止めずに、背の高い男を下から睨みつける。
「…棗は、昔から口の減らないガキだな」
あたしの睨みなんて、気づかなかったかのように男はスルーしていった。
たしかに、あたしは生意気な子供だった。だけど、こんなやつに生意気な口を叩いた覚えはない。
「てか、勝手に名前で呼ぶな!」
さり気なく、名前で呼ぶこの男。
「別に、今更だろ。昔からそうだろ」
何を言ってる、とでも言いたげな男の瞳。髪と同じ漆黒な瞳。
この瞳で見られたら、普通の女の子だったら引きつけられちゃうんだろうな。
偉そうな、この態度がなかったらの話だけど。
「だから、あんたなんか知らないってば!」
「おまえが忘れてるだけだ」
嗚呼、いつまでこんな会話をしなければいけないんだろうか。
「だから、知らないって!」
「…酷いな、棗は。俺達結婚の約束まだしたってのに」
男は、少し伏目がちに言う。
「へ…?」
時が止まったかのような、あたしの間の抜けた顔。
なに、この少女漫画でありがちな展開は…。