恋の説明書
すると、ぐっと腕を攫まれ男の腕の中に引き込まれる。
「ぎゃっ!!」
なんとも、はしたない声を出してしまいましたが。
この展開で、冷静を取り繕うことも可愛い声を出すこともできるはずがない。
いや、あたしが可愛い声なんて出したらこの男に蹴り飛ばされるかもしれない。
いろいろと脳内で稼動中のあたしの耳元で男は囁くかのように、声を出す。
「約束しただろ」
「ひっ、ひえええええぇ!!!」
や、約束ってなんですか!
鳥肌が止まりません!
目を点にして男から目を離せないでいると、男は肩を震わせ始めた。
「ぷっ!くくく…」
背中を丸めて笑っている。
え?え、え。え?
「おまえっ!なんだよ、今の声。笑える」
男はやっと姿勢を元に戻すと、目に溜まっていた涙を拭っている。
あたしの思考回路が止まったような気がした。
あたしは決して笑わせようと思ったんじゃない。だって、男に抱きつかれたのなんて初めてなんだもん。しょうがないじゃんか。
男と付き合ったことがないのが、そんなにおかしい?免疫ないのがそんなに変?
悔しさでいっぱいで、唇を噛み締める。
「なんだよ、もしかして泣くとか?」
この男、あたしが出会った人で一番最低だ!!!
「仕方ないじゃん!抱きつかれたことなんてないんだから!!」
「え…」
男はすごく驚いたような顔をした。
あたしは思い切り拳を握り締めて、この男に怒りをぶつける。
バキ!そんな音がした。
そして男が地面に倒れる音と、男の小さな声。
「痛っ…」
そんな男に見向きもせず、自分の家へと走った。