恋の説明書
「…ふざけないで」
じとっとした視線を向ける。
「あら、良かったじゃない。棗!付き合ってもらいなさい!!」
「良かったな、人生初の彼氏がイケメンで。おまえ生きてた甲斐あったじゃん」
本人の気持ちを聞かず、盛り上がるお母さんとお兄ちゃん。
「ちょっと!勘弁してよ!あたしはこんな男嫌だ!」
「おいおい、棗~。普通の女は、伊織が付き合ってくれたら泣いて喜ぶぜ?」
「どうかしてるんでしょ!どうせ、顔で選んでるんでしょ。あたしだったら、こんな性格の悪い男願い下げだね」
「こら、棗。このチャンス逃したら一生彼氏できないかもしれないのよ。あんたの選ぶ権利はないのよ」
ちょっとお母さん…。あたしの彼氏に立候補する人はいないとか、あたしはなんなの。
「とにかく、嫌なんだってば!!」
食事を食べ終えたあたしは、勢い良く箸を置き立ち上がりリビングを後にする。
たとえ、魔がさして頷いたとしてもあの男は騙されたあたしを馬鹿にするに違いない。
もしも、もしものことがあったとしてもありえないでしょ。
きっとストレスで禿げてしまうだろう。
部屋に着くなり、ベッドへダイブする。
「はあ、満腹満腹」
腹を摩るあたし。これでも、乙女だろうかと思わず苦笑してしまった。
それにしても、五十嵐伊織がどこに越してきたのかは知らないけど関わりたくはないからあまり会わないようにしよう。
まあ、もう子供じゃないんだから家へ遊びに来たりはしないだろうけど。
お腹がいっぱいだったせいか、あたしはいつのまにか眠ってしまった。