恋の説明書

「おいおい、伊織~幼稚園児相手にムキになんなって」

掴みかかろうとしていた俺を、蒼真が静止する。

「棗も謝れよ」

ムスっとした表情を浮かべ、棗はパタパタと床に足跡を響かせ部屋の奥へと消えてった。

ブサイクで可愛くねえ。ムカつくガキだった。

だけど、俺は棗に会う度にちょっかいを出していた。

棗の大好物を横取りしたり、嫌がることをしてた。

その度に、棗は泣きながら怒る。

だけど、そうでもしなければ棗は俺を気にも止めてくれないから。

棗は俺のことを嫌いと言う。

嫌いでもいい。俺を見てくれるなら。

この時はまだ、棗に構って欲しいだけだと思ってた。

そんな時、俺は些細な事で蒼真と喧嘩をしてしまった。

勢いで殴ってしまったけど、蒼真は怒るわけではなくフッと笑い挑発的な視線を向けた。

その目に苛立ち、謝るなんてことはできなくってその場を立ち去った。

俺が悪いって分かってる。だけど、子供ながらに意地をはっていた。

公園のベンチに座り込んでどれくらい立っただろうか。

「いおり?」

そこへ棗が現れた。

棗は俺のことを呼び捨てで呼ぶ。

「なにしてんだ。さっさと家帰れよ」

棗は俺の横に腰をかける。

「いおりは帰らないの?」

「…まだここいる」

「いおり、どうしたの?悲しいことあった?」

俺の顔を覗き込むようして、真っ直ぐな瞳を向ける棗。

駄目だ、この目を見ると全て話してしまいたくなる。
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