恋の説明書

「…蒼真と喧嘩したんだ」

俺は人付き合いが苦手だと思う。

どう接していいから黙ってると、怒ってると勘違いされ怖がられる。

両親はいるものの、共働きで朝から晩まで走り回っていて家ではいつでも一人だ。

別に一人でも平気だった。

蒼真と出会うまでは。

「ねえ、名前なんて言うの?」

小学5年のクラス替えの日俺に声をかけてきた男がいた。

「…五十嵐伊織」

「へえ、伊織か~。俺はね藤森蒼真!」

いきなり慣れなれしく話かけてくる。コイツのことは知っていた。

廊下を歩く度、男女関係なく色んなやつがコイツのことを取り囲んでいた。

クラスの女子がコイツに対し、黄色い声援を送っているのを聞いて名前を知った。

女にモテそうな整った顔立ちにいつも笑っていて、休み時間になると率先して遊びを誘う姿を見て納得した。

めちゃくちゃ明るいやつってのは分かった。

だけど、俺はコイツみたいなうるさいやつは嫌いだ。

「ねね!伊織って、モテるでしょ!」

「は?」

身を乗り出して、俺の顔を覗き込む。

真っ黒な俺の髪とは違い少し茶色ががった髪から、大きな瞳が見える。

「女子が、伊織のことカッコイイって言ってるのよく聞くよー」

たしかに、女に呼び出され告白されたことは何回もあった。

勿論、口も聞いたこともない女だから断る。

バレンタインに下駄箱の押し込まれているチョコも毎年捨てている。

女が寄ってくることはよくあった。

「おまえの方がモテてんじゃん」

「まあ、否定はしないけど~。てか、おまえじゃなくて伊織って呼んでよ!!俺たちもう友達じゃん」

「…いつから友達になったんだ?」

「え~?俺の中ではもう友達だよ。よろしく、伊織」

この瞬間から俺たちは友達になった。

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