恋の説明書
初めて出来た友達に俺は戸惑った。
初めてした喧嘩。今までは喧嘩するような相手がいなかった。
棗と口喧嘩するのは別だけど。
謝りたいのに、なんだか恥ずかしくてどうしたらいいか分からない。
「どう謝っていいかわかんねえんだ」
年下の棗に相談してる俺はどうかしてる。
嘲笑うかのように、足元にあった石を蹴飛ばした。
「ごめん、て言えばいいんだよ」
さも、当たり前かのように言う棗。
そうだ、ごめんて謝るのは当たり前なんだ。
何を意地はる必要があるんだ。
「おにいちゃん、きっと許してくれるよ。あたしが悪いことするといつも許してくれるもん」
ニッと笑う棗。
ブサイクな顔だけど、その笑顔に救われた。
早く帰って、蒼真に謝ろう。
この時思った。幼稚園児なのに、俺は棗の一言と笑顔に救われた。
初めて見た笑った顔。もっと見てみたいと。
それは、俺がこいつのことが好きなんじゃないかって。
棗と一緒に公園を出て、藤森家が見えて来た頃…
「うわあああん!!いおり~っ!」
泣き喚きながら走ってくる蒼真がいた。
「うう、ごめん~」
「なんで、おまえが謝るんだよ」
「だって、怒ってたから~」
「いや、俺が悪かった。殴ってごめん」
蒼真はピタリと泣きやんだ。
「ううん!伊織が俺に感情ぶつけてくれて嬉しかった。いつも自分のこと話してくれないし…。だから殴られた時嬉しくて笑っちゃった。ごめんね」
てへっ☆と舌を出す蒼真。
「………」
それはさすがにキモイと思ってしまった。
「まあ、友情深まったよね!」
ヘラヘラと笑う蒼真。
俺たちの友情が深まった(らしい)この日、棗への感情に気づき俺の長い片思いが始まった。
俺が12歳、棗が7歳の時のことだった。