恋の説明書

自分の気持ちに気づいてからも、俺は自分の気持ちを伝えることが出来なくて棗をいじめてばかりいた。

好きだって伝えたいのに、気持ちとは正反対なことばかりして言ってしまった。

泣かしたことだって、数え切れないくらいあった。

その度に棗は、眉を吊り上げて唇を震わせ涙を溜め俺を睨みつけた。

「大嫌い」と棗は言う。

こんなこと言わしたくないのに、なんでこうなんだろう。

1人、落ち込んだ。

だけど、俺は棗の笑顔が見たいのに傷つけることしか出来ない。

傷つけるくらいなら離れてしまいたかった。

だけど、この気持ちを抑えることなんて出来なかった。

忘れようと、他の女を抱いたって満たされない。

残るには虚しさだけ。

棗の変わりになる女は1人もいなかった。

俺の心を動かすのはただ1人、棗だけ。

たまに見せる笑顔は、俺の心を掴んで放さない。

大嫌いでもいい。棗の瞳に俺が映るなら。

喧嘩ばかりしていたけど、この想いを伝えてフラれてこの関係が気まずくなるのが怖くて気持ちを伝えられぬまま俺は上京することになった。

引越しの前日、俺は棗を泣かせてしまって喧嘩をした。

次の日、棗は見送りに来なかった。


あれから、何度も忘れようとした。

東京で知り合った女を何人も抱いた。

棗はこんな俺を汚いと思うだろう。

だけど、どんなに好きな女に気持ちを伝えられなくてどうしたらいいか分からなかった。

忘れたいのに、忘れられない。

なんで俺は、あんな女が好きなんだろう。

何度嘆いただろう。

本気で付き合った女などいない。

俺は12歳の時から、今でも報われない片思いを続けている。

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