恋の説明書
「おはようございまーす」
あたしのバイト先の本屋は家から徒歩10分程。
車の免許は面倒だったから取ってないから、徒歩なのだ。
いい運動のはずなのに、一向に体重は減りやしない。
「棗ちゃん、おはよう。今日はゆっくりなのね」
この人は同じバイト仲間の、美園 志保さん。
新婚ホヤホヤの28歳。
「朝から、お兄ちゃんと言い合いしちゃって…」
更衣室でエプロンを着けながら苦笑する。
「お兄ちゃんて、28歳って言ってたよねー?」
ロッカーに備え付けの鏡を見ながら化粧直しをしている。
濃すぎない、自然なナチュラルなメイクが施されていて華やかな印象の志保さん。
ほとんど、ノーメイクのあたしとは全然違う。
眉毛書いて、ファンデーションするくらいだもんな。あたし。
まあ、スッピンでもたいして変わらないのだけど。
「そうですよー」
「藤森…もしかして、藤森蒼真?」
「え…そうですけど、お兄ちゃんのこと知ってるんですか?」
「高校一緒だったのよ。同じクラスにはなったことないけど。でも、棗ちゃんと似てないわね。全然分かんなかったわよ」
…よく言われます。
ははは、と苦笑いを零す。
開店時間に近づいたので、少し乱れた髪を手櫛で整える。
志保さんは枝毛が一本もないんじゃないかというくらい、サラサラな髪を一つに纏めた。
そのサラサラな髪がうらやましいよ。
売り場に移動し、商品整理をしながら話を続ける。
「昔ねー、あたしの友達が蒼真君と付き合ってて少し知ってんのよ。まあ、すぐ別れちゃったんだけどね」
お兄ちゃんの女に対してのだらしなさは、この頃既に発揮されてたもんなー。
乾いた笑みを浮かべ、心の中で嘆く。
「どう?蒼真君、もう落ち着いた?」
これは、女関係についてだろう…。
「いえ、遊びまくって特定の女性も作らず独身生活を満喫しております」
志保さんはおかしそうに、クスクス笑い出す。
「ははっ、そっかー。相変わらずだね。そういえば、蒼真君の友達にイケメンの人いたわね。たしか、五十嵐君だっけ。今何してるのかな、棗ちゃん知ってる?」
げっ。また、嫌な名前を…。