恋の説明書

「五十嵐伊織ですか…?お兄ちゃんと同じ会社で働いてるみたいですよ」
聞きたくない名前を聞いて、ぶすっとした顔つきで作業を進める。


「えっ!そうなの?会社まで一緒なのねー!!」

志保さんはというと、手を止めて話に夢中になっている。


「あれ、でも藤森君て県外の大学行ったんじゃなかったっけ」


「昨日帰ってきたんですよ。移動になったらしいです」


淡々とと話すあたし。
だけど、志保さんなんでこんなにアイツのこと気にするんだろう。


「もしかして、志保さんアイツのこと好きなんですか?」


これは禁断の恋というやつなのか?
新妻が元同級生に恋してるとか、昼ドラによくあるパターンじゃないか…!

めくるめく妄想は広がるばかり。



「ぷっ!やっだ!棗ちゃん!!あたし結婚してるのよ!?」

ええ、存じておりますとも。
薬指に輝く、結婚指輪がそれを教えてくださいます。


「だって、志保さんやけにアイツのことやけに気にするから」


「それは同級生として気になるからよ!だって彼のこと苦手だったし…」


その言葉に目を丸くした。


「あんなに顔が整ってるから女子からは大人気だったけど、藤森君は目を向けないで冷たくあしらってたわ。

彼に泣かされた子をあたしは知ってるから。文句言いにいったことだってあるのよ」


「そうだったんですか!やっぱり最低なやつだったんですか」


「それにしても、棗ちゃんやきもちかな?」


にまぁ。と笑みを浮かべる志保さん。

それが気持ち悪くないのは、顔のつくりが良いからだろう。


あたしだったら、通報されてしまうレベルだ。

「やめてくださいよ!あたし、アイツのこと昔から大嫌いなんですから」

今度は志保さんが目を丸くする。

「あら、そうなの?あたし、てっきり好きなのかと思った」


「ありえないです!あたし、あんな性格悪くて女にだらしない人嫌いですから」

「たしかに、それは言えるかもしれないわね。大和が高校の時、何度注意したかしれないわ。蒼真君もあわせてね」


大和さんというのは、志保さんの旦那さん。

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