恋の説明書
新着メール一件。

来店したのは、紛れもなく昨日会った五十嵐 伊織で。

なんでいるの、なんであたしが働いてるの知ってるのと頭の中でグルグルと疑問ばかりが浮かぶ。

「よお、棗」

五十嵐 伊織はあたしを見つけるなり声をかける。

プイッと勢いよく顔を背け、無視を決め込む。

するっと、ガシッと頭を掴まれた。

グリグリと押される。

「おうおう、お客様に対して随分な態度だなー」

痛みが増し、目頭に涙が溜まる。

「いだいっ!痛い!!やめてよ」

やっと、手を放した五十嵐 伊織を恨めしく睨む。

奴はフンと鼻で笑うだけだけど。

「何しに来たのよ!客だって言うんだったら、何か買いに来たんでしょうね!!」

うう、痛い…。痛みを和らげるかのように、頭を摩る。
一向に、痛みは和らがないのだけど。

「ああ、仕事の本買いにな。案内しろ」

…どんだけ、俺様なんだ。

チッと、舌打も忘れない。

「おい、客に舌打していいと思ってんのか。店長に言いつけるぞ」

チッ。まったくうるさい男だね。

「ドンナホンデショウカ」

胡散臭い笑顔を貼り付け、棒読みで言う。

「ああ、パソコン関係の本な」

嫌々ながら、案内する。
最後の最後でコイツが来るとはー。

「こちらのなりますけど。」

案内だけして、クルッと背を向ける。

すると、腕を掴まれる。

「おい、一番上の本を取れ」

本棚の一番上を指差す五十嵐 伊織。

「はあっ!?自分で取ればいいでしょ!!あんたの方が背デカイんだから!!!」

180センチ超えてるあんたが、150センチ代のあたしに言うか!!

「脚立があるだろ。それに、これも店員の仕事だろ」

むむ~!悔しくて唇を噛み締める。

まったく、昔より憎たらしさ倍増だ!!!
年とったら、小姑みたいになったよ。このオッサン。

「はいはい、やらせて頂きますよだ!!!」




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