恋の説明書
「よお、久しぶり」
漆黒の髪と切れ長な二重が印象的なぱっと見イケメンな男が言う。
無視無視。
「…人違いですから」
生憎、あたしにはこのようなイケメンの知り合いはいない。
いや、寧ろ男の知り合いはいない。
新手のナンパだろうかとか、不粋な考えはない。
相変わらずこの男は、あたしを追い越す気配はなくあたしの歩くスピードに合わせて車を走らせる。
「おまえ、藤森 棗だろ?」
なぜ、この男があたしの名前を知ってるんだろうか。
足を止めたあたしに、この男はフッと口角を上げニヒルな笑みを浮かべた。
感じ悪いっ!
「俺のこと忘れたなんて言わねえよな?」
いや、言いますけど。
というか忘れたんじゃなくて知りません!!
「あんたなんか知らないし!!」
なんなんだ、この男。
逃げてしまおう!
その場を早歩きで去る。
すると、イケメンの車はやっとあたしを追い越してくれた。
やっと、人違いって気づいてくれたか…
だけど、その車はあたしのすぐ先で車を止めて
車からイケメンが出てきたのだった。