恋の説明書
「な、なんでそうなるのっ!て、て、てかっ!止めてよ、気持ち悪いっ!!」
グッと、五十嵐 伊織の肩を押す。
「文句言わずにさっさと来いよ」
「嫌!なんであんたと帰らなきゃなんないの!?」
「棗ちゃーん。上がりよ」
するとヒョコッと志保さんが姿を表した。
「ぎゃっ!!志保しゃんっ!はいっ!上がらせて頂きますですっ!!」
五十嵐 伊織を突き飛ばして、控え室まで逃げるように向かう。
自分専用のロッカーを開けて、エプロンを投げ込む。
備え付けの鏡に移った自分の顔。
いつもと同じ冴えない顔なのに、頬が僅かに紅くなってるのに気づいた。
それを打ち消すかのように、頬を叩く。
……ビックリしたぁー。
だって、相手がどんな人だろうが男の人があんな至近距離にいたことないから。
それに、あいつ顔だけは整ってやがるから。悔しいほどに。
あいつは苦労しなくても女の人が寄ってくるんだからいいよな。
それにお兄ちゃんも。
あたしも綺麗な顔に生まれたかった。
そしたら、違う人生があったのかなー。
パタンとロッカーのドアを閉めた。
志保さんの言葉を思い出す。
あたしにも恋焦がれることができるような、相手が現れるのかな。