恋の説明書
出社初日で本格的な仕事は明日からな俺は、定時で仕事を切り上げて棗のバイト先に来ていた。
ただ、顔が見たかったから。
昨日も見たんだけど。
学生の頃の棗しか知らない俺はなんだか新鮮に見えた。
仕事だから当たり前だけど、レジで笑顔を浮かべて仕事をする棗。
客に嫉妬した。
馬鹿だなって苦笑する。
仕事だからって分かってる。
だけど、そんな表情でさえ羨ましかった。
俺には向けてくれないから。
しばらく立ち止まっていたけど、店の奥に入る。
棗は俺に気づき、とても嫌そうな顔をした。
そんな顔一つでさえ、俺にとっては嬉しかったりする。
蒼真には変態だって笑われたけど。
今は嫌な顔でもいいから、いつか笑顔を見せてほしい。
棗が怒る姿が見たくて、仕事中な棗にちょっかいを出す。
脚立から落ちた棗を受け止めた時、余裕ぶってはいたけど胸の高鳴りがハンパなかった。
久しぶりに会った棗は、昔とは違ってしっかり大人の女になっていて。
抱き締めたかった。
俺のものにしちゃいたいぐらい、ドキドキした。
他の男に渡したくない、強くそう思った。
せっかく棗が取ってくれた本だし、買ってくかと思いレジに並ぶ。
「1200円になります」
レジは空いていて、すぐに会計を済ませ本を受け取る。
「あなた、五十嵐君でしよ?」
突然店員に声をかけられた。
レジをしていた女店員は、清楚な雰囲気の女でさっき棗を呼びに来た店員だ。
「あんた誰?」
なんで俺の名前を知ってるんだと不思議に思い、眉を寄せる。