恋の説明書

信号が赤信号になった時、男はハンドルに腕を乗せて顔だけこちらに向ける。


ふっと見せた横顔は少しだけ優しそうに見えた。


なぜか、その横顔を見てそんなに悪い人じゃないのかも。


本当にこの人はあたしの知り合いで、あたしが忘れているだけで。


忘れてしまって申し訳ないなと思った。


「えっと…その」


「まあ、いいよ。そのうちに分かるから」

「え!教えてくれないの!?」

すると、赤信号は青信号に変わり男はアクセルを踏み込む。


「そのうち分かるって言ってるだろ」

男は名前を教える気はないらしい。


なによ、名前ぐらいでもったいぶっちゃって。


「名前ぐらい教えなさいよケチ!」


「ったく、おまえは相変わらずナマイキだな」


男はめんどくさそうに吐き捨てる。


いかにも、あたしのこと知ってるかのように言って…。


あたしは、あんたなんか知らないっつーの!



どうやら、あたしは見知らぬ男の正体は暴けないままドライブするハメになったみたいです。



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