あの音をもう1度
---幻?
なわけない。
自分で会いに来たくせにそう思ってしまった。
会いたくて、会いたくて、すべてを捨ててでも傍にいたいと思った人。
「涼・・・太」
やっと出て生きた一言。
だけど、それによって糸が切れたようにギュウと抱きしめられた。
「奏・・・、奏なんだよな…」
「うん…」
この暖かさが嬉しくて声が震えた。
フランスへと旅立った4年前。
知らない土地に異なった文化。
そして自分以上の実力を持った猛者たちがひしめく場所。
ハードな練習にうまくいかない苛立ち。
いろんな障害や不安に何度も涙を流した。