飴色蝶 *Ⅰ*
けれど、電話を切った後の
私の心は彼が死んでしまったら
どうしようと、思う気持ちに
占領されて

不安な気持ちを抱えながら
 
駅へ降り立った。  

この駅で降りるのは

何年ぶりだろう。
 
懐かしい思い出と共に
ベンチに深く腰をかけ俯き
しな垂れる庵の姿が見えた。

私は一先ず

彼の存在にホッとした。

ずぶ濡れの黒いスーツは
雨水を含んでより黒さを増して
濃くなっていた。
 
その色は、彼の悲しみの深さを
表しているように、切ない色。

ずっと見つめていると、その色
に私までもが飲み込まれて
しまいそうになる。

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