飴色蝶 *Ⅰ*
庵に逢う事ができないまま
十日程経ったある日
  
私は、雪乃を誘って映画を
見に街へ出掛けた。

そんな私に、雪乃は言う。

「スミレの方から
 誘ってくるなんて
 珍しいよね」

「そうかなぁ?」

「うん、昔からスミレって
 いつも私やサラサに合わせる
 方じゃない
 
 飲み会も、二人で決めて
 後で教えてよって具合に
 
 絶対自分からは
 今日逢おうよとか
 言わないよね?」

「本当だぁ」

雪乃に言われて、初めて
気がついた。

「逢いたいなら、逢いたいって
 言ってもいいんだよ」

雪乃の声が、私の胸に
ズドーンと重く響いた。
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