飴色蝶 *Ⅰ*

苦いキス

先代の正二と、兄弟の盃を
交わしている組長数名と
朱莉の店で宴席を設けられた
庵は、その場を離れる事が
できずにいた。

つまらない自慢話を聞かされて
庵は、嫌気が差していた。

そんな、庵の気持ちが分かった
のか、朱莉は、こっそりと庵に
笑ってみせた。
 
庵は、あの襲名式の日から
朱莉の待つ部屋には
一度も戻っていなかった。
   
この十日間、寝に帰るだけの
ホテル暮らしをしていた。

やっと、先代から解放された
庵は、今すぐ菫のところへ
向かおうと思ったが

この機会に朱莉と、ちゃんと
話し合う方がいいと考え

彼女が仕事を終えるのを
店の前に車を停めて待っていた

< 290 / 488 >

この作品をシェア

pagetop