飴色蝶 *Ⅰ*
私は一瞬だけ、その香りの事が
気になったけど
  
庵に逢えた事が嬉しくて
その後は、気にも留めなかった

疲れた表情をみせる庵。
 
「仕事、大変なの?」
   
庵は、首を縦に振るだけで
仕事の事は、何ひとつ
話してはくれない。

今も、これからもずっと・・・

「ビールしか無いけど飲む?」

「いや、さっきまで
 飲んでたから、酒はもういい
 お茶か、水くれる?」

私は、コップに冷えた
お茶を注いで、庵に渡した。

「ありがとう

 煙草吸っていい?」

「うん、その灰皿
 使っていいよ」

テーブルの上に置かれた

黒猫の灰皿・・・

「・・・こいつ誰かに似てる」
 
そう言って灰皿を、じっと
見つめながら、煙草を銜え
火をつけて一服する庵を見て
  
私は
『似ているのは、あなたよ』
と、心で思いながら笑った。
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