飴色蝶 *Ⅰ*
電話を取った庵に、舎弟のシバ
は言う。

ここ三日程、ある時間になると
会澤組若頭、細矢は朱莉の店へ
向かい、車を停めて、じっと
店の方を見つめていた。

「俺は、先代や親父を待ち伏せ
 しているのかと思っていたの
 ですが、それが・・・」

「どうした?」

「細矢が用があったのは
 親父のイロのスミレさん
 だったようで、泣いている
 彼女を抱きしめて
 その、口づけを・・・」

そう、シバの話では菫に口づけ
を交わした後細矢は頬を打たれ

逃げようとした彼女を引き寄せ
その胸に強く抱きしめた。

「その数分後、彼はスミレさん
 から離れて、彼女は走って
 駅の方へ・・・」

菫の姿が見えなくなった後も

細矢はその場で

立ち尽くしていた。
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