飴色蝶 *Ⅰ*
駅に着いた私は
いつまでも先輩の手を
放せずに強く、強く
握り締めていた。

この手を放して
しまったら

今度はいつ
先輩に会えるか
分らない。

彼が卒業して
この六年間
一度も会えなかった。

また、逢えなくなる・・

「着いたよ
 そろそろ、放してよ」

私は、パッと手を広げた

「じゃあ
 気をつけて帰れよ」

庵は、すばやく
人込みを抜けて
駆けて行く。
      
今、彼に自分の気持ちを
伝えなくて、今度はいつ
伝えることが

できるだろう。
      
私は、彼を呼んだ。
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