飴色蝶 *Ⅰ*
私は、庵の胸に近づき

ゆっくりと瞼を閉じて
 
彼の心臓の音を聞いた。

「ドキドキって
 素敵な音が聞こえるよ」

庵の左腕が強く、私を包む。

「俺は、こうして、お前に
 触れるのが怖かった
 お前を愛してしまうような
 気がしたから・・・
 いや、本当はそうじゃない
 お前を愛している自分に
 気づく事を恐れていた」

彼が、胸の奥深くに
閉じ込めた想い

違う、間違いだ、好きじゃない
と蓋をした想い
 
「すみれに触れて、その扉が
 開け放たれた時
 俺の中で、お前の存在が
 大半を占めた
 お前の事ばかり考えていた
 
 初めて触れたあの時、俺は
 死ぬ程緊張した
 それをお前に感じ取られない
 ように、俺は、必死で隠した   
 
 目覚めて、お前の姿を探した
 けど、どこにもいなくて
 俺は焦ったよ」

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