飴色蝶 *Ⅰ*

十字路

要の運転する車が、本部事務所
の近くを走る。

菫の声を聞けないまま、電話を
切られた庵は掛け直しても
無駄な事を何となく理解して
携帯電話をしまう。

「親父、どうしたんですか
 喧嘩ですか?」

「いや、違う
 でも、急に行く場所ができた
 幹部の話を聞いた後、家には
 戻らずに、ユキさんの家の
 手前で降ろしてくれ」

「ユキさんって、先代の・・・
 分かりました」

「カナメ、勘違いするなよ
 彼女とスミレは知り合い
 なんだ」
   
「じゃあ、スミレさんがそちら
 にいらっしゃるんですね」

「ああ、そうみたいだ」

庵は一瞬だけ微笑んだ後
窓の外を見た。

「親父、もうすぐ本部に
 到着します」

事務所の前、庵の到着を
待っていた組員達が辺りを
見渡しながら、車から
降りた庵の護衛に付く。

「親父、先代が話があると
 執行部の皆様と、ご一緒に
 先程から
 お待ちでございます」
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