前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―


「イケナイことをしようか、空」


覗き込んでくる瞳が色欲帯びている。

それ以上に俺の思考回路が酸欠によって停止状態だ。


なんかもう、抵抗しても抵抗しても無駄な気が……どうしようもないし、何か流されちまえ、な、気分になってきた。

諦めてはイケナイと思いつつ、川島先輩の言葉が脳裏に過ぎる。


『潔く諦めて食われることが豊福の幸せだと思うぞー。情事ってのは最初だけ時間を取るだけで、あとは意外とパパパァーっと流れてあっという間に終わっちまうって』


最初だけ時間を取るだけで後は……本当にそうならちょっとだけ流されてもいいような。本当にちょっとだけそう思ってきたぞ。本当にちょっとだけ、さ。


抵抗の“て”も忘れてしまった俺の耳元で、


「空はあたしのもの」


熱い吐息と共に耳元で囁かれた。


もう俺に逃げる術はない。後はただ流されていくだけ。


「ぎゃぁあああアイドル早まらないで下さいぃいい!」

「それは不純な生き物! 貴方が穢れっ、こら、押すな諸君!」



……ファッ?!


勢いよくカーテンが開かれたかと思ったら、なだれ込むように親衛隊が倒れ込んできた。


光景に俺達はカチンと固まった。

正しくは俺がカチンと固まる。


どこからデガバメしていたのか、我に返った親衛隊達も土俵に飛び入り参加してしまった現状にまずいと石化。


ぎこちなく口角を持ち上げ誤魔化し笑い。


唯一鈴理先輩だけが上体を起こし、腕を組んで口元を痙攣させていた。


「またしても親衛隊……情事を公開するつもりはないのだが」


どすのきいた声は怒気を含んでいた。


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