前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「折角っ、空がその気になっていたというのに。何故、ケータイ小説のように上手くいかないのか。空をその気にさせるのは、それは、それは苦労をするのだぞ。それをあんた達っ……覚悟はいいか?」
指の関節を鳴らす鈴理先輩の満面の笑顔に親衛隊達が悲鳴にならない悲鳴を上げる。
体を癒すための保健室が地獄と化した瞬間だった。
いそいそとベッドから下り、地獄をかいくぐって廊下に出た俺は近くの壁際に背を預けて座り込む。
程なくして俺の荷物を届けてきてくれたフライト兄弟が声を掛けてきた。
彼等は俺が廊下にいることに疑問を抱いたようだけれど、保健室から聞こえてくる悲鳴によってある程度の察しはついたようだ。
親衛隊のことを触れないかわりに、アジくんが俺の首を指さして揶揄してくる。
「それは何だよ。え、豊福くん?」
付けたての紅痕に顔を顰めつつ、二人の笑声を一蹴に返事した。
「自分の私物には名前を付けるじゃん。あれと一緒だよ……しょうがないだろ。俺はカノジョの所有物なんだから」
いや、カレシの所有物だと訂正するべきだろうか。ポジション的に。