前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
01. 草食、デートに誘ってみる
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「そういえば空ってさ。鈴理先輩とデートとかしているのか?」
事の発端は授業と授業の間の休み時間、フライト兄弟・アジくんの突発的な質問から始まった。
突然の質問にノートを整理していた手が止まる。
デートってあれだよな、男女が日時を定めて会うことだよな。プライベートで会うことだよな。
そういえば俺と鈴理先輩はデートというものをしたことがない。
学校で毎日のように顔を合わせて駄弁ったり、飯を食ったり、貞操の攻防戦を繰り広げたり(最後のこれはあるまじき戦である)、そういうことはしているけど普通恋人になったカップルはデートとかするものだよな。
「したことないなぁ」
アジくんに正直な返事を返せば、「駄目じゃん」思いっ切り駄目だしされた。
前の席の主が留守なことをいいことに、アジくんはどっかりと前の席に腰掛けて体ごと俺の方を向いてくる。
「恋人になって気持ち確かめようと思ってんだろ? ちゃーんとデートくらいやらないと。おっと向こうがお嬢様だとか、お前が庶民少年だとか、習い事がありそうだとか、御多忙の身の上とか、そんな言い訳はなしだぜ? まずは平等目線で考えねぇとな。デートにお嬢様も庶民もないし?」
重々しく口を開いて反論しようとする俺の逃げ道を見事にアジくんは塞いできた。
口実を作っては逃げちまう俺の性格をよく理解しているよな、アジくん。
「デートかぁ」
したい気持ちはあるんだけど今一歩勇気が踏み出せない。
顔を顰めている俺に、
「男になるチャンス到来だぜ」
デートに誘ってみれば良いじゃないかとアジくんはニカッと男前に笑ってみせた。
瞠目する俺に、
「金なんて使わなくたっていいんだ」
俺の家庭事情を知っているアジくんは優しく助言してきてくれる。
「一緒に過ごしたい時間を作ってやることって大事だと思うぜ? カッコつけたデートなんてしなくていい。大切なのは気持ちだ。商店街をブラブラ散歩するだけでも大事な時間を過ごしたって思えるじゃんか。デートに誘ってみれば鈴理先輩にも喜んでもらえるぞ?」
「そ、そっかなぁ」
「そうだって。手始めに放課後、一緒に帰りませんか? とか言って誘って、デートすりゃいいじゃん。なあ。笹野」