前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
ちょっ、食われる。
先輩って見た目以上に肉食だから俺、マジで食われる。
しかも此処は教室だからね。
お昼休みの教室でアータは一体何をしているんですか。
しかもしかも周囲の女クラの皆様、「今日もお熱いわね」「ほんとに」「いい天気ね」和気藹々と俺達を見守っている。
おかしいっ、誰か一人くらい止めてくれたっていいじゃないか!
焦って抵抗を始めた俺に気付いた先輩はキスを深くしてきた。
舌が口腔を撫で回し、上あごを擽って人を翻弄させてくる。
奥に引っ込んでいる俺の舌を追い駆け、無理やり絡ませてくる傍若無人な行為に脳内で火花が散りそうだ。
なにより息ができない。
顔を引きたいけど、顎に掛けている指が解放を許さない。
嗚呼、この人のキスが上手いのか上手くないのか。
なにぶん、ディープキスなんて先輩が初めてなものですから、経験皆無の俺には判断がつきませんが、思考回路がショートしそうなんで多分上手い類に入るとは思います。はい。
「ごちそうさま」
唇をぺろっと舐められ、ようやく解放される。
情けないことに相手の体に凭れてしまった。
息は絶え絶え。25mあるプールを息継ぎ無しで泳ぎ切ったみたいに息が切れている。
ゼェゼェと呼吸を繰り返す俺の背を擦りながら、鈴理先輩は晴れ晴れと笑顔を作った。
「今日も欲の一部が満たされたな。あくまで一部だが」
憎々しいくらいに煌いているその笑顔も美人だよなぁ、もう。
俺は呼吸を整えながら弱弱しく反論。
「せ、先輩。こういうものは恋人同士でやるものっす」
「何を言っているんだ、空。あたしの所有物、つまり恋人だぞ? 何度、言わせば分かる。それともわざと仕置きをさせようと煽って」
目が輝いている、先輩。
そんなに仕置きをした、い……っ俺の大ピンチ再到来。
何故にいつも仕置きの流れに方向を持っていくんだい、先輩! 仕置きがしたくてウズウズしています、みたいな目で俺を見ないでくれ。
「なんでそうなるんですか。じゃあ、百歩譲ってポジションは勘弁して下さい」
「何故だ? 空があたしの腰に腕を回し、ダンディにキスをするとでも?」
そ、そげなことができるほど俺もできた男じゃないけど。
「な、何故って……女性にされる俺の身にもなって下さいよ。男前に台詞を吐くのも、腰に手を回すも、がっつくキスを仕掛けるのも、普通は男が女にやるものですよ」
「馬鹿を言うな。女が男にやってはならない法律が何処にある? 男女平等という言葉を知らんのか? それとも女を差別する気か? よし、少しそこに座れ。あんたに教えてやろう」
鼻を鳴らした鈴理先輩は、俺を空いている席に無理やり座らせた。
此処は先輩の席じゃないよな。ごめんなさい、この席の人。
戻って来たら直ぐに立ちますから。
余所で鈴理先輩は黒板の方へと向かう。
中途半端の長さを保つ白いチョークを手に持ってササッと黒板に図式らしき絵と文字を書いていく。