前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
俺は素直に母さんの指示に従った。
本当は風邪薬があればいいんだけど、生憎我が家には胃薬しかない。
風邪薬は切らしているんだ。
少し前まであったんだけどなぁ。
「私はもう行きますけど」
何かあったら会社に連絡して欲しい。
お昼頃にまた様子を見に来るから。
そう言ってくれる母さんは俺に氷枕を作ってくれた。
「いいよ。一人で出来るから。子供じゃないんだし」
「お昼はどうするんです? お粥を作り置きする時間も無かったから、ああ、もうこんな時間! じゃあ空さん。学校には私が連絡しておきますから」
大丈夫だと言っているのに。母さんは俺に甘いんだよな。
出勤する先輩の背を見送った俺は布団に身を沈めた。
氷枕の冷たさが気持ちいい。もう一眠りしようかな。
あ、ダメダメ!
その前にやることがあるだろ!
体を起こした俺は机に置いている充電中の携帯電話を手に取る。充電は終わっているみたいだ。
あー……先輩、もう学校かな。
できることなら電話したいな。
直接謝りたいし……LINEする元気は無いんだ。
ただでさえ機械音痴だからさ。
文字を打つだけで30分も掛かる。
時計をチラッと一瞥。8時を回ってちょいってところか。
俺は電話することにした。
そこからは正直、記憶が曖昧。
電話に出た先輩に謝り倒して、風邪を引いてしまったことを何度も説明していたってところまでは覚えているんだけど、あとは曖昧だ。アイマイ。
気付けば電話を切って布団の上でノックダウンしていた。
―――ポーン。ピンポーン。
いつの間にか寝てしまっていたみたいだ。ドアベルの音で俺の意識は浮上した。
今日に限って誰だよ。
回覧板か? 新聞の勧誘とかならお断りだぞ。
重たい頭を起こして俺は溜息をつく。
あーマジで頭が重い。居留守使っちゃ駄目かな。
玄関までちょっと歩けば直ぐなんだけど、今の俺にはその距離さえ辛い。
聞こえてくるドアベルをBGMにしながら俺は相手が去ってくれるのを待った。
ドアベルは暫くすると聞こえなくなる。
ホッと俺は息をついた。
もっかい寝よう。
ドンドンドンドンドン―!
ドンドンドンドンドン―!
ドンドンドンドンドン―!
ドアベルの代わりに派手なノック音。
今にもドアが壊れそうだ。近所迷惑も良いところだろ!
「な。なんだ?!」
俺は素っ頓狂な声を上げた。