前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
もしかして取立て屋でもやって来た?
父さんもしくは母さんが連帯保証人になった?
俺の家、ついに借金生活突入?
風邪とは別の汗が噴き出る。
ブルッと身を小さくして俺は玄関を睨む。
どうしよう。出るべきなのかな。
でも出たら最後、俺ン家の家具とかテレビとか机とか金目のものは取られちまうんじゃねぇか?
取り立て屋だったら、俺自身も身を売られちまうんじゃ。
と、窓から視線を感じた。
突き刺さる視線に俺はバッとそっちに目を向ける。
俺は悲鳴を上げそうになった。
そこには妖怪おばばの姿……じゃない、お松さんの姿。
ベランダ無しの窓から部屋の中を覗き込んでいる。
な、何しているんだよ、あの人! 恐ぇよ! 夢に出てきちまいそうなくれらい恐いっつーの!
お松さんと視線がかち合った。細い目がくわっと見開いた。
もうそれだけで俺は半泣き。
熱のせいか余計お松さんが恐く見える。
想像してみ?
誰もいない筈の窓の向こうに老婆がぬーっとこっちを見ているんだぜ?
目がかち合った途端目が見開くんだぜ。
悟りを開いたように開眼なんだぜ?! 恐いってもう!
スーッと目を細くするお松さんはサッと窓から消えた。
何処に行ったんだろ? てか何しに来たんだ。お松さん。
窓際に歩み寄って窓を開けた。
俺の家は二階だからあんま窓には近寄りたくないし、下とか景色見るのは恐いけど、今はお松さんが一番恐い。
下を見ないように左右を見てみる。
お松さんの姿は何処にも見当たらない。
それが妙に恐怖を煽る。
窓を閉めた俺は嫌にドキドキしている胸を押さえた。
ふと気付けば派手なノック音は消えていた。嬉しいんだけど、何か妙に嫌な予感。
バタン―!
玄関の扉が突然開いた。
え、ちょ、鍵を掛けているのになんで開いちゃうの?!
ギョッと驚く俺は更に驚く羽目になった。
スーツを身に纏った男が数人家に上がってきたんだ。しかもグラサン掛けているんだから、驚くだろ普通。