前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
空笑いする俺に先輩は何が食べたいか聞いてきた。
正直食欲がないんだけど、素直にそう言うと先輩はダメダメと首を横に振った。
「薬を飲まなければいけないんだ。何か胃に入れないと。そうだな……何が良いと思う?」
鈴理先輩は後ろで待機しているグラサン男達に意見を求めた。
どうでもいいけど正座して待機されるとすんげぇ重圧感があるんだけど……グラサン男達帰ってくんねぇかな。
できれば一人待機。
三人も待機されるとこっちも気が落ち着けない。
俺の気持ちを余所に、グラサン男達は揃ってスープ系が良いのではと意見した。
あ、なるほどな。
味噌汁くらいならいけそう。
「サムゲタンならば精力もつくと思いますよ」
「なるほど、次」
サムタゲ……? それって日本のスープっすか?
「ヴィシソワーズなんてどうでしょうか。冷たくて美味しいスープですが」
「ウム。それもいいな」
冷たいスープ? どんなスープ? てかスープ?
「ソパ・デ・ペドラは具沢山ですし、栄養もあると思うのですが」
「ほぉ。ソパ・デ・ペドラか。迷うな……」
もはや俺には魔法の呪文にしか聞こえない。
「空、どれがいい?」
にこやかに聞いてくる先輩。
俺は申し訳なさでいっぱいになった。
「先輩……俺。全部聞いたこと無いです。無知ですみません」
途端にピシリと固まる室内の空気。
ごめんなさい。
でも本当に聞いたことのないものばっか。
一般人も食したことあるスープ達なんっすか? 少なくとも我が家では食ったこと無いスープ達なのだけれど。
「馬鹿!」
鈴理先輩はグラサン男達に怒鳴った。
「もっと空の分かるようなスープ名を言え! 空が困っているではないか! 空、あんたは謝る必要なんてないぞ。こちらが不可解なスープ名を言ったのが悪い。今のはあれだ。フランス語の一種とでも思え」
「いやそういうフォローされるともっと申し訳ないというか」
「で、では鈴理お嬢さま。無難に野菜スープなんてどうでしょう? 胃にも優しいですよ」