前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
嗚呼、スープのレベルをすんげぇ落としてもらった。
申し訳ないにも程がある。
鈴理先輩はそうだな、と相槌を打って早速用意しなければとばかりにスマホを取り出した。
何でスマホ?
疑問に思う俺を余所に、先輩は画面をタップしている。
「これでよし」
先輩は俺の頭に手を置いて微笑を向けた。
「20分ほど待て。今、シェフに頼んだから。念のためにゼリーも作ってもらうことにしたぞ」
「すみま……シェフッ?!! ッゲホッゲホッゲホ!」
素っ頓狂な声を上げる俺は思わず羽毛布団を跳ね除けた。
咳き込む俺の背中を優しく擦ってくれる先輩は、何をやっているんだとばかりに苦笑い。
だってシェフ? シェフって何?!
たかだか病人食にシェフを使うなんて、ちょ、なんで?!
大焦りの俺に先輩はさも当たり前のように言う。
「あんたに中途半端な物を食べさせられるか。あたしからデートを奪った憎き風邪菌を死滅させるにも、あんたには十二分に栄養を摂ってもらう。なに、心配するな。三ツ星のシェフに作ってもらう。味は保証するぞ」
「いや俺の心配はそこじゃなくって」
「三ツ星シェフは嫌いか?」
……駄目だ、俺と先輩は根本的に生活観が違う。お嬢さまだもんな。
異論はないと首を振って布団の海に沈んだ。
驚けば驚くほど、叫べば叫ぶほど風邪が悪化する。今日は大人しくしとこう。咳も酷くなる一方だし。
「大丈夫か」
ぐったりする俺の顔を覗きこんでくる先輩に、俺は力なく笑った。
正直辛いけど、先輩が折角来てくれたから簡単にきついなんて言いたくもなくて。
言葉の代わりに頷いた。
幸い嘔吐感はない。ただ体がだるいだけ。
先輩に迷惑を掛けることもないと思う。
風邪が感染らないかどうかだけが心配だけど。
鈴理先輩はグルッと部屋を見渡していた。
「狭いでしょ」俺の問い掛けに、「確かにな」正直に頷く。
こういうところは気遣いを見せない先輩だけど、正直に答えてくれた方が俺的にも気が楽だ。
先輩曰く、自分の家の使用人の部屋くらいの広さらしい(一人分が我が家分の広さって)。
てことは先輩の家は大豪邸なんだろうな。想像も付かねぇや。