前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「しかし好きな男の部屋と思うと、狭さも心地良く思う」
フッと微笑を見せる鈴理先輩。
いつもいつも、こうやって不意打ちをしてくる先輩って卑怯だと思う。
おかげで俺は馬鹿みたいに照れた。
熱で赤くなった顔がもっと赤くなっていると思う。
「少し机を見てもいいか」
許可を得る問い掛けのわりには、先輩は俺の返事を待たず腰を上げて机に向かって行っちまった。
大したものは置いてないから別に見てもらっても構わない。
鈴理先輩は俺の机に置いてある写真立てを眺めていた。
「ん?」
先輩は何やら首を傾げている様子。
俺は何となく先輩の疑問が分かった。
先輩は何で別々の写真が二枚も置いてあるんだ? と思っているんだろうな。
俺に机の上には二つの写真立てがある。
両方一組の夫婦と俺が写った写真。
だけど二枚は別々の写真。
別に特別隠すことでもないから、俺は写真を説明する。
「先輩。俺は今の豊福家の、本当の子供じゃないんっすよ」
顧みてくる彼女の目は驚きに満ちていた。
「本当の子供ではない? 空。あんた、養子なのか?」
「簡単に言えばそうなりますね。右の写真は俺を産んでくれた家族で、左の写真は俺を育ててくれた家族なんです。今の家族って言う方が適切かもしれません。俺には両親が二人ずついるんっすよ。右の家族は俺が小さい時に亡くしました」
「では、空は今の御家族と血縁関係がないのか?」
俺は説明を重ねる。
「いえ無いってことはありません。今の家族は前の父さんの弟。つまり今の父さんなんっすけど、俺は父さんの弟夫婦に引き取られた子供なんですよ。引き取られても苗字は変わらないんですけどね」
「だから今の豊福家の子供ではない、と言ったのか」
「ええ。交通事故で亡くなったそうなんっすけど、正直そこら辺は憶えてなくて。でも前の両親の思い出ってのは不思議と残っているもんです。今の両親も好きですけれど、前の両親も大好きでした」