前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
気付いたら前の親がいなくなって、今の親が現れた幼少の思い出。
まだ俺は小さくて、戸惑いばかり覚えていた。
今では育ての父さん母さんも好きだし、生みの父さん母さんも好きだ。
それだけはハッキリ言える。
鈴理先輩は俺の元に戻ると腰を下ろして、「すまないことを聞いたな」詫びを口にしてきた。
「俺が勝手に話したんっすよ」
目尻を下げて先輩に笑い掛ける。隠すことじゃない。
そりゃ前の両親を失くして悲しいけど、今の両親が俺を精一杯育ててくれているしな。
貧乏とか全然苦じゃない。
寧ろ早く楽させてやりたいってのが俺の気持ち。
親孝行したい。
俺は今の両親が大好きなんだ。
どこかで血縁が薄いことに、心苦しさは覚えるけど、さ。
「それより先輩、デート本当に申し訳無いっす。折角約束していたのに……ゲホ。学校も早退したんでしょ?」
俺は話題を変えた。
改めてデートの謝罪をする。
多忙の身の上の先輩と約束をしていたのに、俺の方が破っちまうなんて。
発端は俺なのに。
だけど先輩は首を横に振った。
「確かに残念だったが、正直、あたしは今の状況でも満足しているんだ」
満足? なんで?
先輩が楽しみにしていたデートを、俺の風邪のせいで潰したのに。
疑問を抱く俺に先輩は言葉を重ねる。
「どういう形であれ、空と共にいれる時間が出来た。デートなど口実に過ぎない。本当は学校以外の場所で空と会えれば、何処でもいいんだ。二人きりで過ごせれば何処でも、この時間も、あたしにとっては幸せな時間だ」
微笑む先輩は口を閉じちまう。
俺はどう反応を返せばいいか分からなかった。
こんなの絶対に反則だろ。
熱で気持ちが安定していないのに、そこに先輩がそんな熱烈な甘い口説きをするなんて。
自分の心拍数がどんどん上がっていく。
しんと室内が静まり返っている。
だからか、俺の心拍数の異常な鼓動が聞こえて、聞こえて。
いっけねぇ、俺、どんどん先輩に惚れていくのが分かるよ。
静寂に耐えかねた俺は毛布を引き上げた。顔を隠そうって思ったんだ。
けど先輩がそれをやんわり止める。
火照っている手を取って唇を寄せてくる先輩に俺はもう絶句、鈴理先輩は限りなく柔らかな笑顔。
「おまじない。早く良くなれよ、風邪っぴきヒロイン」