前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―


俺の思考回路はショート。

先輩は微笑のまま俺の手を取っている。

傍から見れば異様な光景だと思う。


身動きも出来ず固まること15秒後、鈴理先輩は自分の首を締めたとばかり嘆いて俺の手を取ったまま身悶え始めた。


「今の空はまさに初々しいヒロイン! 赤面するヒロイン! あたしのポジションは口説きに成功したヒーロー!
なのに、なのに、なのにっ、空は風邪をひいている。あたしは手を出せない。こんなの拷問ではないか! 嗚呼、食いたい、食いたい、食らい尽くしたい」


今ので完全に思考回路が回った。

アッブネェ、いつもの俺なら赤面で固まるなんてことしないのに。

女のポジションになっていると気付いて、防波堤を張るのに、今日は風邪菌のせいで心身弱っているせいか普通に状況を受け入れていたよ。


なんでヒロインとか言われて赤面しているんだ、俺。キモイって。


それとも慣れてきた? 女ポジション。

実は受け入れている? 女ポジション。


どっちでも良くなってきている?

俺、おにゃのこのポジション、受け入れている? 受け身de全然いけるぜ?


……いや認めない。認めないぞ。

俺は男だ。

間違ったって女々しくならないぞ。いつか先輩と立場逆転するんだ! 豊福空は男らしく生きてみせようぞ! 


ということは、それは俺が先輩を押し倒すわけで?


……別に俺、そういう性交に走りたいわけじゃないもんな。

先輩と過ごせれば満足って感じ。

健全的な意味でリードできれば万々歳ってやつ。


あれ? これって男として終わっている?

性欲薄い俺って終わっている?


盛り時期なのに、俺って男として色々とやばい?


「よし、我慢は互いの体に悪いな」


そうそう、先輩が自己完結して行動を開始するし……しー……しー……。


俺は慌てて上体を起こすと掛け布団を取ろうとする先輩の手首を掴んで、「何しているんっすか」大袈裟に笑声を漏らした。

あははっ、先輩、ちょーっとたんまっすよ。

病人に何をしてくれようとしてくれのか、すんげぇ分かっちゃうんだけどそれはたんまっす。


「今日くらい勘弁してくれないっすか」


ふふふっ、先輩も大袈裟に笑声を漏らして真似てくる。


「汗を掻けば治りも早いそうだぞ」


物騒なことをにこやかに言う。

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