前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「空は寝ておくだけでいい。後はあたしに任せろ。何、ただ汗を掻くだけだ。汗を、な」
「全力で遠慮します」
「何? 空はあたしの心遣いを突っ返すつもりなのか」
「はい。丁寧にお返し致します、先輩」
「そーら。無理やり敷かれたいか?」
「せーんぱい。ゴホッ、もはやそれは脅しの領域っすよ。今日は病人なんっすから大人しく、優しくして下さいっす」
チッ、先輩は舌打ちを鳴らす。
どうやら俺が病人だってことを考慮してくれたようだ。
ホッと安堵の息をついた。
だけど、俺は先輩を甘く見ていた。
鈴理先輩はこれしきのことでめげなかったんだ。
待機しているグラサン男のひとりにタオルを用意するよう指示。
素早くグラサン男がスーツケースからタオルを取り出すと、先輩はそれを受け取って台所へ。
何をするのかと様子を見守っていると、先輩は流し台でタオルを濡らし硬く絞って勢いよく広げる。
そして極上の悪人面、違った、極上の攻め面を俺に向けてきた。
「空、脱げ」
「……はい?」
「だから脱げと言っている。汗を掻く行為は諦めてやろうではないか。だがしかし、これで諦めるあたしだと思ったら大間違いだ。熱が出ているせいで汗を掻いているだろ? 拭いてやる。多分、疚しい気持ちもないと思う。とにもかくにも病人には優しくしなければならないしな。なあに、最初は上だけで良いぞ。最初は、な」
俺は反射的に布団から飛び出した。
思わず近くにいたグラサン男のひとりの背の後ろに隠れる。
先輩の顔は明らかに“汗を拭く”行為だけじゃ済みませんよ、という顔している! 攻め顔に悪意さえ見え隠れしている!