前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
一貫性のない夢を見たな。
なんでジャングルジムの夢から、俺が今の父さん母さんの息子になる夢を見たんだろう。
瞼を持ち上げた俺は朦朧とする意識の中、熱に浮かされた頭で夢のことを思い出していた。
軽く目尻に雫が流れているのに気付いて、俺はそっと寝巻きの袖口で涙を拭う。
いかんいかん、熱に浮かされると涙腺が緩みやすいみたいだ。
ただの夢なのに何を泣いているんだか。
喉が渇いた、俺は視線を動かす。
「空、起きたか」
おはようと微笑んでくるのは鈴理先輩。
読んでいた文庫を閉じて、「具合はどうだ?」俺の顔を覗き込んでくる。
そういえば先輩、見舞い(と、言っていいのか分からないけど)に来てくれていたんだっけ?
あ、思い出してきたぞ。
俺、熱があるくせに暴れたものだから気分が悪くなったんだっけ。
記憶が先輩に汗を拭かれているところで止ま……無事だな、俺。気を失っちまったみたいだけど、なあんにもされてないよな。
まさか寝ている時にあ~れ~なことされたわけじゃ、うん、無さそうだな。
流石に先輩もそこは心得てくれているんだな。
良かったよかった、胸を撫で下ろす俺に対し、先輩は不満そうに唇を尖らせて頬を膨らます。
「まったく。あそこでオアズケなど酷いではないか。手を出したくて堪らなかったあたしに対する嫌味かと思ったぞ」
「ははは。あー……すみません」
でも俺が悪いのだろうか?
「熱だから仕方が無いと割り切ったが、二度は無いからな! 次は絶対に食らう」
グッと握り拳を作る鈴理先輩に、俺、引き攣り笑い。
嗚呼、俺、よく無事だったな。食べられなかった俺の無事と、先輩の理性に乾杯だ!
「おかげで空に出来たことといえば、証を付けることくらいだ。あー、こんなの欲の足しにもならん」
証? 付ける? それって俺の体に?
ガバッと起き上がった俺は急いでタンスの上に置いてある手鏡を探り出す。
ゴクリと生唾を飲み、恐る恐る鏡面を覗き込む。間を置いて絶叫。
お、俺の首筋から鎖骨辺りが悲惨な事になっている!
赤い点々がいっぱいなんだけど!
俗にいうキスマークがいっぱい。
制服で隠し切れないところまでバッチシ付いている。
これでまた一つ、先輩の所有物の証が俺の体に……なんて呑気に思っている場合か!