前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
感染せばいいさ。
心中で呟き、鈴理はかの恋人の両頬を包んで唇を奪う。
零れんばかりに瞳を丸くして瞠目する恋人の後頭部に手を回し、深い口付けをしながら鈴理は思うのだ。
自分を不覚にも落とした草食動物受け男を、精一杯守ってやりたい、と。
いいじゃないか、男を守るヒーロー的な女がいても。
自分は攻め女なのだ。
受け身男を精一杯守ってやりたい。
守られるのではなく、全力で守ってやりたいのだ。
そういう人間になりたい。
守り方にだって色んな方法がある。
文字通り前面に出て守る。
それは勿論だが傍にいる、支えになる、思い遣る、これもまた立派な守り方。
そういう人間でありたいし、空に必要とされる人間でありたい。
もしも、高所恐怖症のことで、また過去のことで、何か彼が傷付くような事があれば、その時は全力で守ってやりたい。ヒーローとして。
(ま、それにはまず相手を完全に落とし返さなければな)
自分を落とした相手を、今度は自分が落としてやるのだ。
あたし様の物になってくれなければ、本当の意味で彼のヒーローにはなれないではないか。
それどころか美味しく頂けない。
早く美味しく頂きたい肉食心なのだが……嗚呼、まったく、忍耐だけが付きそうだ。
ペロッと赤面する相手の唇を舐め、鈴理はニヤッと口角をつり上げる。
「好きだ、空。早く元気になれよ」
そして早く、本当に自分に落ちてくれよ。
肉食お嬢様は相手の様子をご機嫌に窺っていたのだった。
片隅で草食の幼少に胸を痛めながら。