前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―



絶句する柳と高間の姿なんて露一つ知らない鈴理は、堂々とニヤリ顔で言うのだ。


「要するに周囲の声など微々たるものだと、その体に教えてやればいいのだろう? まったく所有物のくせに、周囲の声で不安を抱くとは生意気な。空、準備と覚悟はいいか?」


「よ、よくないっす! ご、ゴメンナサイっす! もう言いませんっ、ほんっとに言わないっすからっ! そ、そのー……此処ではちょっと」


「ほぉー。此処では嫌? では後ほどたっぷりさせてくれるわけだな?」

「い……いや、そういうわけでも」


「選択肢は二択だ。此処でスるか、それとも後でスるか。ちなみに後者の方が過激になるぞ。なにせ、公ではない場でヤるつもりなのだから」


「う゛……」


空は自分の発言がどれほど失態だったのかを思い知りながらも、後者を選び、モゴモゴと何度も謝罪を繰り返す。

ニンマリとあくどい笑顔を作る鈴理は、「後が楽しみだな」したり顔で食事を再開。



こうして柳と高間の望むギスギスした雰囲気が完成したのだが、種類が、種類が違う。


あれでは恥じらいと欲と恋人故のギスギスムード。


寧ろギスギスという名の甘いムード。


アウチ、どうしてこうしてああなった!


「(……隊長。これはもしや)」

「(分かってはいると思うが、失敗だ)」


「(鈴理さまにあんなことを言われてっ……切ないですよ。隊長。ついでに羨ましい)」

「(まったくだ。一度でいいから、豊福空のポジションに立ってみたいものだ)」


ガックシ二人は肩を落とし、水滴がびっしりついているコップを手にするとグイッとお冷を一気飲み。自棄飲みとも言う。


はてさて通り掛ったその店のスタッフは、他のテーブルの食器を片付けながら思った。


この二人、さっきからメニューを見ているだけで、まったく注文する気配が無いのだが……お客なのだろうか? と。


不審がられていることなど気付かない二人は、いつまでも深い溜息をついていたのだった。まる。


< 166 / 446 >

この作品をシェア

pagetop