前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
捲くし立てるように二階堂先輩に意見する鈴理先輩は言ってやってぜ、みたいな清々しい顔を浮かべた。
あれ。あたし様も同じなんじゃ……だってあたし様は俺様の女版。
うん、きっとツッコんじゃいけないんだろうな。
俺は何も触れない、触れないぞ。
散々な自己紹介をされた二階堂先輩は軽くこめかみに青筋を立てて、呻き声を上げた。
「仮にも表向き上は許婚だろうが」
もう少し、まともな紹介は無いのかと舌を鳴らす。
ポカーンとして聞いていた俺だけど間をたっぷり置いて、鈴理先輩と二階堂先輩を見やり、
「許婚?」
いやーな現実にドッと冷汗。
ちょ、待て待てまて、許婚って双方の親の計らいで婚約が成立した組を指すんだよな。ということは、この二人って、え……うぇぇえええ?!
「せ、先輩。許婚いたんっすか。目の前の方っ、許婚なんっすか」
驚きかえる俺の質問に、ちょっと決まり悪そうな顔を作って先輩は肯定。
「親が決めた許婚だがな」
更に補足するために、彼女は腕を組んで相手を睨んだ。
「許婚と言っても、あたしと大雅は一切認めていない。これは幼少から変わりないことでな……昔からあたしとこいつは仲が悪い。夫婦にでもなったら、即離婚届を出しそうなくらいな」
「お前を娶った日には、俺自身の人生が終わる。ああ終わっちまうっつーの。鈴理はいっつも俺に指図しやがるし」
お互いがお互いに指図をされる事がおキライらしい。
俺からしてみれば、どっこいどっこいな性格をしていると思っているんだけど……あれか、同属嫌悪って奴か――だけど許婚がいるってことは、やっぱり親としては財力のある同士でお付き合いして欲しいって気持ちがあるんだろうな。
財閥を後世に語り継がせていくために、少しでも財力のある財閥と付き合わせる。
庶民の俺には奇想天外摩訶不思議な世界だけど、許婚ってだけで手前の身の程をたっぷり突きつけられた気分。
俺達、本当にお付き合いしても大丈夫なんだろうか?
不安を募らせる俺の腰がグイッと引かれたのはこの直後のこと。
「なっ!」驚く俺を余所に、「そんな顔をするな」思わず襲いたくなるだろ、間違った慰めを掛けてくれる先輩は爛々と目を輝かせて見つめてきた。