前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
赤ん坊の頃がそうだったものだから、物心付いてからはもっと喧嘩が激しくなったそうだ。
曰く二階堂先輩は鈴理先輩と幼稚園、小学校、中学校ずーっと一緒だったらしいんだけど、殆ど喧嘩しか記憶にないらしい。
口を開けば口論ばっかり。
何で仲良く出来ないのかと注意を促されれば、必ず言うことは一緒。
「こいつが指図するから!」だそうな。
そりゃあ二階堂先輩は俺様っぽいし、鈴理先輩はあたし様だから、指図するのは好きでもされるのは嫌いだろうな。
まあ、それでもお互い喧嘩しながらでも仲良くはしてきたらしい、二階堂先輩曰く。
喧嘩ばっかりする悪友として見てきたものだから、許婚として見ることがどうしてもできないらしい。
気の置けない悪友として今日まで過ごしているとか。
「それに俺には……」
二階堂先輩が口ごもる。
お? その反応はもしかして別に好きな人が?
ブツブツ呪文のように独り言を唱えている先輩を見つめていると、俺の視線に気付いた彼が決まり悪そうに咳払いをした。
「とにかくだ。俺は許婚として幼馴染みとして……んにゃ腐れ縁? まあ、どっちでもいい。お前がどういう奴か話してみたかっただけなんだ。
顔も財力も俺に劣る野郎が鈴理の彼氏だとか聞いて、どういう野郎か気になったんだよ。
ありがちな許婚だから恋敵になるとか、嫌がらせをするとか、そんなのは一抹も考えてねぇから。どこぞの嫌味野郎になるつもりは毛頭ねぇぞ」
「(でも初対面は結構な嫌味キャラだったような)そうっすか、じゃあ気兼ねなく仲良くできるんっすね」
妥当なことを言ったまでなんだけど、先輩はピタッと動きを止めてジトーッと俺を見つめてきた。
「なに? お前、この俺と仲良くしてぇのか?」
いや、べつにそういうことを言っているわけ……わけだけど、そこまで言うほど友好を深めたいわけじゃない。
でもどちらかといえば、不仲になるよりかは、廊下で擦れ違う際、お互いに「こんにちは」と爽やかに挨拶が言える良好関係でありたいような気はする。
誰だってヤじゃんかよ。不仲とかさ。