前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
ぎこちなく相手を見やれば、ふふふっと妖しい笑声を漏らして俺の肩に手を置いてきた。
「あたしではなく大雅を選んだんだ。それなりの覚悟があってのことだろ?」
「か、覚悟って」
「そうだ。前からあんたに似合いそうだと思っていた……ちょっと待て、確かスマホに……あったあった。罰としてこれを着ろ。あたしの家に来た時でいいから」
テーブル上に置かれた携帯のディスプレイをおずおずと覗き込んで、目の前が絶望と化した。
俺がこれを着ろって? 冗談でもきつい。
完璧にそれスカートじゃんかよ、それ。
画面には『アリスのコスプレをしてみよう』とかノリ良く記述されているけど、そりゃ女の子が着るからこそ萌えが発生。俺が着たらマイナス萌えが発生するわけだ。
「これのポイントはな」
活き活きと語る先輩の目は、そりゃあもう、爛々もらんらん、煌いていた。
「スカートが長いってことだ。ロングスカートは清楚でいいと思うんだ。ミニスカはミニスカで萌えがあるが、あたし的に空はロングだと思うんだ。ちなみに大雅はミニスカを穿かせたことが」
「……大雅先輩」
「忘れた。ああ忘れた。俺は何も憶えちゃない。なーんも憶えてねぇんだ」
ガツガツ日替わりA定食を食べている大雅先輩のオーラには哀愁が含まれているような。
そうっすか、そうっすか、ほんっとうに苦労してきたんっすね。大雅先輩。心中察します。
……今度はその先輩の苦労を俺が背負(しょ)うことになりそうっす。
顔を強張らせる俺に構わず、鈴理先輩は「それにロングだとな」キランと眼光を一輝き。
「中でナニをしても、分からんだろ? ミニスカだと分かってしまうが、ロングだと、手を入れても本人には何をするか分からないロマンがある。いいな、そういうロマン」
「先輩はどこぞのセクハラ親父っすか?! 嫌ですよ。す、スカートだなんて……俺が着てもキモイだけです」
「安心しろ。着るのはあたしの前だけ。あたしは盛大に萌えるだろうから。まあ、萌え過ぎて襲っても責任は持てないが」
ああああっ、笑顔と期待と妄想を含む眼で俺を見つめないでくれ先輩!
俺は、おれは、土日の外泊が余計怖くなったんだけど!
身震いをする俺に、「どんまい」大雅先輩がこれまた満面の笑顔で励ましてくれた。
半分以上は面白いと思ってくれているんだろう。目で分かる。