前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「だ、駄目だろ。今日は……せ、先輩の家で楽しく過ごすって決めたじゃないか。逃げ口として……じゃない、話題づくりとして勉強道具も持っていくし。分からないところは聞いて、深夜遅くまで勉強なんかしちゃって。で、お互い疲れて寝る。うん、よしよし、我ながらグッドアイディア」
だけどもし深夜遅くまで勉強していて、「これからはアダルトな勉強でも」とか言って先輩が悪魔と化したらどうしよう。
ブンブン、俺はかぶりを左右に振ってポカポカと頭を叩いた。
そういう不埒でオッソロシイ妄想をする前に、先輩と純情で健全、ピュアな一夜を過ごす計画を立てたらどうだ豊福空!
これじゃあ『イヤヨイヤヨモスキノウチ』ルールに則(のっと)って、俺自身、実はヤられることを期待しているんじゃないかって自身に疑心を掛けちまうだろ!
期待なんてな、これっぽっちもしてないんだぞ!
……キスくらいは、しちゃいたいなーとか思っているけど。
「俺の阿呆。いっそのこと灰になっちまえばいいのに」
どーんと民家の塀に手を添えて落ち込む俺は、長いながい溜息をついた。
今日のことで悩みすぎたせいか、ちっとも眠れなかったんだよな。
多分1時間くらいしか眠れていないと思う。
俺、最低6時間は睡眠取らないと体がついていかないタイプなのに。
だけど睡魔の兆しさえ感じないのは、すっげぇ俺が緊張しているからだよな。
貞操の危機は置いといて、彼女の家に行くんだから、そりゃあ緊張するだろうよ。初体験のことだし。
両親には「これでも持って行きなさい」と、手土産に煎餅を持たされたけど……いや世話になるんだからこれくらい当然なだろうけど、向こうの口に合うかな。煎餅。
豊福家なりにゴージャスにはしたんだけどな。
「さてと先輩曰く、田中さんが迎えに来てくれるって言っていたんだけど。時間は確か正午だったような。先輩がLINEで正午とメッセージを、あ、来た」
クラクションの音に顔を上げる。
道沿いに車を寄せて、クラクションを鳴らしているのは田中さん。
ちなみに田中さんは鈴理先輩を送り迎えしている運転手さんの名前だ。
手を振って、俺はいかにも高そうな高級車に駆け寄る。