前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
二人がいなくなったことで部屋が静まり返る。
晶子さんは置いといて、竹光さんがどれだけ濃いキャラだったかを窺わせる静寂っぷり。静か過ぎてちょい不気味かも。
俺は窓辺から吹き込んでくる微風を頬で受け止めつつ、改めて部屋を見渡す。
さっきはドタバタしていたから見る間も感じる間もなかったけど、此処は先輩の部屋なんだよな。
だだっ広い部屋だな。
高そうな椅子や丸テーブル、ベージュのソファーがでーんっと部屋に置いてあるくらいだから、この部屋は相当広い。
俺には広過ぎるくらいだ。
微風に踊らされている若葉色のカーテンがゆらゆらと体に揺すっている。
高級感溢れるラックや生活感をカンジさせる勉強机、本棚なんかもあるけど先輩の大好きな恋愛小説バッカなのかな?
こんなこと言ったら変態くさいかもしれないけど、この部屋は先輩の匂いがする。優しい匂いだ。安心する香りが仄かにしてくる。
先輩が部屋を使っているのだと改めて実感する。
彼女の匂いがして当たり前なのかもしれないけど、鼻孔を擽られるほどこの部屋は先輩の香りでいっぱいだ。
突然、世界が反転した。
「お」間の抜けた声を出す俺は自分の身の上に降りかかった状況が呑めず、取り敢えず視線を下げる。
飛びついてきた先輩が胸の顔を埋めていた。
押し倒されたわけじゃないけど、それに近い状況だよなこれ。
けど先輩の、「良かった」安堵の声音にいたらん考えが吹っ飛んでしまう。
軽い行方不明事件は先輩にとって相当心配を掛けてしまったらしい。
「先輩」名前を紡げば、「人攫いにあったのかと思った」彼女は小さく身を震わせた。
大袈裟だと思ったけど、彼女はそうでもないらしい。
曰く、財閥の娘はそういう面で危険に曝されることがあるとか。
だから敏感なんだ。こういう事件に関して。
こんなに心配させるんだったら、もっと早く押しの強い竹光さんに正体を明かして先輩の下に行くんだったな。
「すみません」
謝罪してぎこちなく頭を撫でる。
顔を上げる彼女は瞳を軽く揺らしていたけど、俺の頬に手を伸ばして、そっと触れた瞬間、柔和に綻んでみせた。
恍惚に瞳を見つめ返す俺の鼓動が高鳴るのは、やっぱ俺が彼女を意識しているから、かな。