前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―


「空、似合っているな。その格好」


指摘をされて気付く。

そういや俺、まだ執事服のままだったな。


早く着替えないと、まーた新人召使さんと間違えられちまう。


先輩は俺の恰好に笑みを浮かべると、手早い手付きでネクタイを外してそのまま俺の両手首を一纏めにして押さえつけると……はい? ちょ、なにが起ころうとしているんだよっ!


「へ?!」


マヌケな悲鳴を上げる俺は、一括りにされた両手首に青褪める。


お綺麗に固結びしてくれちゃって超感動……とか、死んでも思わない。


なにこれ、解けっ、解けっ、ないんっすけど!


落ち着け、豊福空、落ち着け。

状況を冷静に収集・分析・整理してみようか。


先輩はネクタイを外していきなり俺の両手首を縛りやがりました。

体勢的には押し倒されているような状況を否めない。


部屋には二人っきり、しかも先輩の部屋。


なるほど、大ピンチってことか、俺。


とか、マジ、冷静に思っている場合じゃないっ! ヤーんな展開っ、危ない展開っ、俺の危機!


「せ、先輩ったらぁ、冗談が好きなんっすからー。ほら、これ、解いて下さい」

「空。今のあたし達は主従関係という設定でいこう。折角のコスプレだしな」


コスプレ……正式名称はコスチューム・プレイ。


確か漫画やアニメ、コンピューターゲームなどの登場人物の衣装・ヘアスタイルなどなどをそっくりそのまま真似て、変身しちゃうことだよな。


てことは今の俺は執事コスプレ?

いえいえいえ、これは実際、あなたの家の召使さん(♂)が着用しているお洋服ですよね。


手違いで俺、着ちゃっていますけど……まさかコスチューム・プレイをするとか、そんなことをほざき始めるんじゃ。


その輝いた目で俺を見下ろさないで下さい!

嫌でも状況が分かっちまいますから!


「実は先日、ケータイ小説で執事系の話を読んだばかりでな。確か枕元に置いて、そうそうこれだ」


でた、先輩の大好きなケータイ小説。

俺にとって悪意すら感じるケータイ小説。


ルンルンでページを開く鈴理先輩は、お気に入りの場所を見つけたのかそこを開いて俺に見せ付けてきた。


しょーがないから目で追って黙読。


タイトルは『イケメン執事とお嬢様のあらやだぁな物語』


題名が俺的にあらやだぁだよ。


えーっとナニナニ、内容は。

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