前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
【第二章 執事の正体】
-実は執事はドSだったのだ!-
紳士で丁寧な敬語、立ち振る舞い。
何事にも動ずることなく気品に溢れた執事、優しい執事。それが私の執事だったのにっ……どうしてこの人は皆の前と私の前とじゃ顔が違うのよ。
「どうかなされました? お嬢様」
「ど、どうもこうもっ、なんでアンタが私の上に覆ってくるのよ! 退きなさいよ! 無礼じゃない!」
「それは失敬。ですが、これもお嬢様のためです。貴方が将来、有望な令嬢となるためにわたくしめが手取り足取り腰取り指導差し上げたい。…そう」
シュルッと自分のネクタイを解いた彼は、私の手首を頭の上で一括りにしてきた。
絶句する私に、執事の彼はこう言うのだ
「泣(鳴)こうと喚こうと、わたくしめが一人前の女性に仕立てあげますよ。お嬢様」
(そして主人公はとんでも展開に突入する運命になるのだった。まる)
執事、お前それでも人間か!
心ある人間がする行為じゃないぞ!
心中で執事のバカヤロウを罵る俺は、
「へ。へえ凄いっすね」
取り敢えず妥当な感想を述べる。
善し悪し関係なく、内容的にはそりゃ凄いと思うよ。凄いとは。
ただな、それを俺に読ませるってことは、あー、経験上つまり……そういうシチュエーションを自分も味わいたいってことだよな。
ん? ちょっと待てよ。
今読んだ話ってお嬢様が執事にヤられる話だよな。てことは、だ。
「先輩がヤられる……んっすか? その話の流れと状況的に」
「馬鹿め。あたしがヤられたいなんぞ思うわけないだろ。シチュエーションを空に味わって欲しいだけだ。これは執事が令嬢をヤってしまう話だが、逆でもまったく問題ないだろ?」
どっちにしても先輩が攻める立場なのね。
分かってはいたけど、いたけどさ!
あと問題ないだろって……この状況自体に問題有りっす。
お昼ですよ、まだ太陽が出ていますよ。
じゃあ沈んだらヤってもいいかって聞かれたら、それはノーっすけど。
「ちょ、先輩!」
「馬鹿。お嬢様だろ?」
ご主人様でもいいぞ、なーんてノリノリで言ってくる肉食動物に俺は冷汗を流した。
これはかなりヤバイ状況だぞ。
先輩の部屋だから、まず逃げ場がない。
手首を拘束されているから思うように逃げられないし。
夜のピンチが此処で訪れるとは、くっ、油断した。